食卓から森を想う。七味入れ「kodachi」ができるまで

はじまりは、料理家との出会いから
「食卓に置いておきたくなるような、素敵な七味入れって、なかなか無いんですよね」 このプロジェクトは、料理家・蓮池陽子さんのそんな切実な一言から始まりました。
蓮池さんとの出会いは、伊那の食を巡るツアーでのこと。東京を拠点にしながら、15年前に出逢った長野県栄村の豊かな自然と深く繋がり、山の活動を息長く続けている蓮池さんの「既存の道具が木製で、かつ素敵なら良いのに」という視点は、私たち「やまとわ」の想いと深く共鳴しました。
私たちは、伊那谷の多様な樹種を次世代へ繋いでいきたいと考えています。地域の森を健やかに保つには、木材をただ消費するのではなく、日々の暮らしで長く愛される「使い勝手の良い道具」に仕立てることが重要です。そこで、プロの料理家の視点と、木を知り尽くした職人の技術を掛け合わせる「専門家との共創プロジェクト」を立ち上げました。 食卓と伊那の森を繋ぐ、七味入れ。ここから、新しい試行錯誤がスタートしたのです。

食卓を「森への入り口」に。料理家が思い描いた風景
長野の食材を活かした料理を手がけ、自身も山菜採りをこよなく愛する蓮池さんには、もっとたくさんの人に森の豊かさに気づき、森へ足を運んでほしいという願いがあります。
塩や胡椒などに比べると、七味は毎日頻繁に使う調味料ではありません。あえて「七味入れ」を選んだ理由には、長野の唐辛子や山椒、伝統野菜などを使った、すべて長野の森の素材で作るオリジナル七味の構想がありました。長野の恵みがたっぷり詰まった七味を、伊那の森の木から生まれた器で振りかける。そんな豊かな食卓の風景が思い描かれていたのです。
開発の過程では、デザインを決定づける一つの気づきがありました。蓋を回して「木目」がピタリと合った瞬間、本体と蓋がもともと一つの木から作られていることに気づかされます。その瞬間に、ただの便利な道具としてではなく、「木の存在」そのものがはっきりと意識されるのです。この木目が合う体験を残したほうが道具への愛着が深まると考え、当初予定していた位置合わせの目印などはあえてなくし、木目そのものを素直に活かすデザインが採用されました。
愛着が湧く道具は、日常に小さな変化をもたらしてくれます。お気に入りの器があることで、普段使わない料理にも七味をかけてみようという新しい体験が生まれるかもしれません。この小さな道具が、日々の食卓から「森への入り口」になること。それが、食卓と森をつなぐこのプロダクトに込められた想いです。
この想いを確かな形にするため、やまとわの木工職人・関さんの地道な試行錯誤へと繋がっていきます。

森の個性をそのままに。小さなプロダクトだからできること
目指したのは、手によく馴染み、食卓にそっと溶け込む佇まい。そして、伊那の里山で育った木々の個性を素直に伝えることです。
今回選んだのは、さくら、かえで、くるみ、しらかばの4樹種。自然の木を扱う中で悩ましかったのは、天然乾燥の過程で入りやすい「虫食い」です。特に製作を手がけた木工職人の関さんによると、しらかばはその被害に遭いやすい木だといいます。家具や雑貨なら自然の跡として「味」にもなりますが、今回は細かいスパイスを入れる容器。中身がこぼれないよう、虫食いの材は安全を見て弾くことにしました。
一方で、この小さなサイズだからこそ活かせた部分もあります。それは丸太の周辺部分である「白太(しらた)」。家具などの大きなものには強度が足りず敬遠されがちですが、七味入れのサイズなら十分に使うことができます。中心部の赤みとは違う、白く軽やかな表情が、デザインの良いアクセントになりました。 樹種や部位によって異なる色合いや木目をそのまま楽しめるのも、天然木ならではの魅力です。

日々の手入れと、心地よい使い勝手
小さな日用品だからこそ、日々の使い勝手には細心の注意を払いました。 例えば、内側の底。中身を入れ替える時、平らなままだと角に粉が挟まって手入れがしづらいため、指の丸みに沿った滑らかなお椀型に削り直しました。七味が出る小さな穴も、垂直ではなく少しだけ下向きに傾斜をつけています。これにより、中身がスムーズに出るだけでなく、使った後に穴の縁に残らずサッと戻るようにしました。
そして仕上げには、食器にも使える安全性の高い天然由来のオイルを塗っています。七味の濃い色や油分が長く触れることで、木材に染み込んでしまうのを防ぐためです。どれもパッと見ただけでは気づかないような、ささやかな工夫の積み重ねです。

快適さを支える、目に見えない探求
この心地よい使い勝手を実現するまでには、理想の形を求めたプロトタイプ作りが何十個にも上りました。
わずかなずれが使い心地を大きく左右してしまうからです。中身を入れ替える時の開け閉めはもちろん、蓋を回して七味の出る量を調整する仕組みのため、蓋はきつすぎても緩すぎてもいけません。茶筒のようにピタリと重なりつつ、快適に回る高い精度が求められます。その理想を実現するため、位置ズレが起きにくい「旋盤加工」を取り入れました。木そのものを回転させながら、刃物で精密に削り出す技法です。
どれもパッと見ただけでは気づかないような、ささやかな調整の積み重ねです。しかし、そんな細部への徹底したこだわりが、日々の快適な使い心地と、食卓に置いた時の凛とした美しい佇まいを生み出しています。

食卓から、森を想う
何度も試作と微調整を繰り返し、今の形にたどり着きました。天然のオイルでしっとりと仕上げた無垢の木は、使い込むほどに手に馴染み、色合いも少しずつ変化していきます。
「kodachi」という名前には、食卓に小さな木立(こだち)を、という思いを込めました。 身近な森の恵みが食卓の彩りとして溶け込み、こだわりの七味を振りかけるその一瞬、使う人が地域の自然を想うきっかけをつくる。そんな「風景から始まるものづくり」を積み重ねることで、100年後の未来へ豊かな里山を繋いでいくことが、私たちの願いです。




